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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)5983号 判決

原告 佐藤英夫 外一名

被告 藤岡繁

主文

原告等の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告等の負担とする。

事実

第一、当事者双方の主張

一、原告等の主張

原告等訴訟代理人は、「別紙〈省略〉第一目録記載の土地を承役地とし、同第二、第三目録記載の土地を要役地とする通行地役権の存することを確認する。被告は、原告等に対し右第一目録記載の土地の通行を妨害してはならない。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決並びに妨害禁止部分に限り仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり陳述した。

(一)  別紙第一ないし第三目録記載の土地の分筆前における東京都港区芝高輪南町七番地及び同区芝下高輪町一番地の宅地は、もと、訴外渡辺昭の所有であつた。

(二)  ところが、右訴外人は、右宅地の一部を同区高輪南町七番の三、宅地七十九坪一合六勺及び同区芝下高輪町一番の三、宅地五百八十坪四合三勺(合計六百五十九坪五合九勺)として分筆して、これを昭和十三年七月二十日訴外竹田宮昌子内親王に売却し、原告佐藤は、同十六年十月十三日右同人からこれを買い受けてその所有権を取得し、同二十一年八月三十一日その所有権移転登記手続を終えた。

(三)  しかして、原告佐藤は、右土地を、更に別紙第二目録記載の土地(以下、本件第二の土地という。)及び同第三目録記載の土地(以下、本件第三の土地という。)に分筆し、原告石原は、昭和二十二年七月三十日原告佐藤から本件第三の土地を買い受け、翌三十一日その所有権移転登記手続を終えた。

(四)  他方、前記渡辺は、昭和二十三年三月一日別紙第一目録記載の土地(以下、本件第一の土地という。)を、訴外大竹島六方に売り渡し、被告は、同二十五年十二月五日右大竹からこれを買い受けて、現に、その所有者である。

(五)  原告等は、時効により本件第二、第三の土地を要役地とし、本件第一の土地を承役地とする通行地役権を取得した。すなわち、

(1)  本件第一の土地は、本件第二、第三の土地の西側に接続するものであるが、その形状は、その西側に存在する公道に向つて緩やかに傾斜し、同一の平面をもつて右公道に接続する間口三間、奥行十八、五六間の細長い土地であつて、その地上には、右渡辺が本件第二、第三の土地を竹田宮に売却した昭和十三年七月以前においても、現在と同様に、建物その他の工作物は存せず、その北側の土地との境界には、高さ約二尺から約四尺のコンクリートの土留があつて、右土留上には、前記公道寄りの約十間にわたり板塀がある外、北側隣地に建設された家屋が迫り、更に、その南側隣地との境界線上には前記公道から本件第二、第三の土地に達するまでコンクリートの塀が存していた。以上のような本件第一の土地の形状は、そのまま通路の形態をなし、相当長年月にわたつて通路として使用されていたことを物語るものである。

(2)  しかして、本件第二、第三の土地は、もと渡辺昭所有邸宅の敷地であつたが、竹田宮に譲渡されるに及んで全くの袋地となつたため、右渡辺は、本件第一の土地につき、本件第二、第三の土地を要役地とする通行地役権を設定して、これを竹田宮の専用通路に供した。さればこそ、右渡辺は、本件第一の土地の北側隣地を金子某に賃貸し、昭和二十三年四月大蔵省に物納し、また、同南側の隣地を米本某に賃貸し、同二十七年四月四日同人に譲渡したにもかかわらず、本件第一の土地のみは何人にも賃貸、譲渡しなかつたのである。原告佐藤は竹田宮から本件第一の土地を承役地とする通行地役権の譲渡を受けたが、その土地の状態も、また全く通路の形態をなしていたところから、右通行地役権が登記を備えなかつたにもかかわらず、完全に通行地役権を取得したと確信して疑わず、自らこれを通行して占有し、更に、同二十年本件第二の土地に建物の建築が完成してからは、右建物の留守居訴外田中五郎も原告佐藤の占有代理人として、本件第一の土地を通行して占有していた。

(3)  右のとおり、原告佐藤は、善意、無過失にて本件第一の土地を本件第二、第三の土地の便益に供する意思をもつて、本件第一の土地を通行し、その占有を開始したものであるが、その後占有は、平穏、かつ、公然に行われた。このことは、被告の前主たる大竹島六が原告等において昭和二十三年四月五日附内容証明郵便をもつて「本件第一の土地は専用通路につき通行の妨害をしないように。」との通告を発したのに、これに対し異議を唱えなかつた事実によつても明らかである。

(4)  しかして、原告佐藤の本件第一の土地に対する右便益関係は、民法第二百八十三条にいうところの「継続且表現ノモノ」に該当するから、原告佐藤は、時効によつて、本年第一の土地について通行を開始した昭和十六年十月十三日から起算して十年を経過した同二十六年十月十三日に、本件第一の土地に対する通行地役権を取得した。

(5)  もつとも、原告等は、被告が昭和二十五年十二月五日本件第一の土地に建物を建築しようとしたので、同月二十七日被告を相手方として東京地方裁判所に工事禁止の仮処分を申請し(同庁昭和二十五年(ヨ)第四、九〇〇号事件)、同日これが命令を得て執行せんとしたところ、右土地がすでに請負人たる訴外近藤建設株式会社の占有するところであつたため、その執行が不能に帰したので、更に、同二十六年一月十一日右訴外会社を相手方として同裁判所に工事禁止の仮処分を申請し(同庁同年(ヨ)第四三号事件)同日「債務者(右訴外会社)の本件第一の土地に対する占有を解いて債権者等(原告等)の委任する東京地方裁判所執行吏に保管を命ずる。債務者は右土地における建築工事を続行してはならない。」旨の仮処分決定を得て、翌十二日これを東京地方裁判所に委任して執行し、本件第一の土地は、工事着手の状態で右執行吏の保管するところとなつたが、被告からの示談交渉に基き同二十七年十月二十四日右仮処分の執行を解放した。従つて、仮に、右仮処分の執行がなされていた一年九カ月十三日の期日は、本件第一の土地に対する占有が右執行吏に存し原告等になかつたとしても、前記(4) の期間満了の日たる昭和二十六年十月十三日から右仮処分の執行がなされていた一年九カ月と十三日を延長した同二十八年七月二十五日を以つて前記通行地役権の取得時効は完成した。

(六)  しかして、原告佐藤の右通行地役権の取得の効果は、同原告が本件第一の土地につき占有を開始した昭和十六年十月十三日に遡るから、原告石原は、同二十二年七月三十日要役地の一部たる本件第三の土地を、該地上の建物とともに買い受けると同時に、地役権の附従性、不可分性により、承役地たる本件第一の土地に対する通行地役権をも、取得したことになる。

(七)  しかるに、被告は、昭和三十年六月頃本件第一の土地の公道から本件第二、第三の土地に向つて左側に僅か三尺位の巾を存して木杭三十数本を打ち立て、その外側に鉄条網を張り廻らし、原告等の通行を妨害するに至つた。

(八)  よつて、原告等は、被告に対し前記通行地役権の確認並びにその妨害排除を求めるものである。

(九)  仮に、以上の主張に理由がないとしても、原告等は囲続地通行権に基いて、被告所有の本件第一の土地を通行する権利がある。すなわち、

(1)  原告等所有の本件第二、第三の土地は、いずれも、他人所有の土地に囲続された袋地であるため、その囲続地を通行しなければ公道に達することはできない状態にある。

(2)  もつとも、本件第三の土地の南側には道路が存するけれども、右道路は訴外プリンスホテルの敷地内に存する私道であつて、公衆の通行し得る道路ではないのみならず、本件第三の土地と私道との間には、高さ四尺以上七尺位の崖が存し、両者を結ぶ道路はない。従つて、原告等が本件第二、第三の土地から公道に達するためには、本件第一の土地を通行する以外に方法は存しないが、仮に、他に方法があつても、前記の如き本件第一の土地の形状及び永年通路として使用されてきた事実に徴すると、原告等が本件第一の土地を通行することは、原告等に必要にして、かつ、囲続地のため最も損害の少いものである。

(一〇)  しかるに、被告は、前記(七)の如き妨害を継続しているので、もし、第一次の請求が理由ない場合には、予備的に被告に対し、本件第二、第三の土地所有権に基いて本件第一の土地における通行の妨害排除を求める次第である。

二、被告の主張

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁並びに抗弁として、次のとおり、陳述した。

原告等の主張事実中、

(一)ないし(四)の事実は認める。

(五)の(1) の事実については、本件第一の土地の形状が原告等主張のとおりであることは認めるが、右土地が永年通路として使用されてきたとの点は否認する。

(五)の(2) の事実については、本件第二、第三の土地が袋地であること、渡辺昭が本件第一の土地の両側の土地を原告主張の如く賃貸譲渡したこと及び原告佐藤が本件第二の土地に建物を建築し田中五郎が右建物に居住していたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。なお、

(一) 竹田宮昌子内親王は、本件第二、第三の土地を買い受けながら、その地上に建物を建築することなくしてそのまま放置していたから、本件第一の土地を通行するはずがない。また竹田宮は、本件第二、第三の土地の西側に隣接して数万坪の宅地を所有し、その地内の本件第三の土地の南側には巾約五間、本件第二の土地の北側には巾約三間の、いずれも、公道に通ずる私道があつたから、右渡辺が竹田宮のために本件第一の土地につき通行地役権を設定する必要もなく、また、これを設定した事実もない。

(二)  本件第一の土地は、今次の戦争中隣組によつて菜園として耕作されていたため、何人も通路として使用した事実はない。

(三)  また、原告佐藤は、昭和八年二月十日より東京都千代田区神田岩本町十三番地に居住していたから、同原告が本件第一の土地に通路を開設して、常時これを通行していたという事実は存しない。田中五郎は、原告の姻戚で同原告から本件第二の土地に建築した建物を借り受け、昭和二十年三月十八日から自己のために本件第一の土地を通行していたものであつて、原告佐藤のために通行していたわけではないから、同原告が右訴外人の通行によつて本件第一の土地を代理占有していたというが如きことはあり得ない。

(五)の(3) 、(4) の事実は否認する。

仮に、原告佐藤が本件第一の土地を占有していたとしても、同原告は、昭和十年頃本件第二の土地に建物を建築するに当つて、その工事関係人が本件第一の土地を通行していたので、渡辺昭から執事を介して再三通行禁止の通告を受けたから、その占有の始めにおいて悪意であつた。仮に、善意であつたとしても、本件第一の土地所有者たる渡辺に対し通行地役権の有無を問い合わせる等右土地通行に必要な調査を尽さなかつたから、少くとも過失の責がある。また、仮に、本件第一の土地所有者たる被告の前主大竹が、右土地における原告佐藤の通行を黙認していたとしても右は隣人たる情宜に基き一時的な通行を許したにすぎないから、これをもつて、同原告の右土地の通行を容認したことにはならない。

(五)の(5) の事実については、原告の仮処分の申請、発令及びその執行並びに右執行の解放手続が、いずれも、原告等主張のとおりなされたことは認めるが、原告等の取得時効が完成したとの点は否認する。

(六)の事実は否認する。

(七)の事実については、被告が原告等主張のように木杭を打ち立て、その外側に鉄条網を廻らした事実は認める。

なお、仮に原告等が通行のために本件第一の土地を占有していたとしても、被告は、昭和二十五年十二月下旬頃右土地に建物を建築すべく、これを近藤建設株式会社に請負わせたところ、右会社は建築基礎工事のため右土地全部を占有するに至つた結果、原告等の右土地に対する占有は奪取された。しかして、その後右土地は、原告等の右会社を相手方とする原告等主張の仮処分の執行によつて、その執行があつた同二十六年一月十二日から右執行が解放された同二十八年七月二十四日までの間、東京地方裁判所執行吏の保管するところであつた。しかるに、原告等は、前記占有侵奪の時より一年以内に占有回収の訴を提起しなかつたから、原告等の本件第一の土地に対する通行地役権の取得時効は、右占有の侵奪によつて中断した。

(九)の主張に対し、囲続地通行権は、法律の規定によつて当然発生する権利であるのに反し、通行地役権は、設定行為その他によつて発生するものであつて、両者はその性質を異にするから、通行地役権に基く訴を提起した後、予備的に、囲続地通行権の存在を主張して請求を拡張することは、請求の基礎に変更があるから許さるべきではない。

(九)の(1) 、(2) の事実については、現に、原告等所有の本件第二、第三の土地から公道に達するためには、他人所有の土地を通行しなければならない状態にあることは認めるが、右各土地から公道に達するためには本件第一の土地を通行する以外に方法がなく、また本件第一の土地を通行することが、囲続地のために最も損害が少いとの点は否認する。

仮に、原告等の主張するように、袋地たる本件第二、第三の土地から公道に達するためには本件第一の土地を通行することが必要であつて、囲続地のためにも最も損害の少いものであつたとしても、原告等は本件第一の土地に通行する権利を有しない。なんとなれば、

(一) 竹田宮昌子内親王は、昭和十三年七月二十日渡辺昭から本件第二、第三の土地を買い受けたものであるが、当時右各土地の西側に隣接して数万坪の宅地を所有し、その宅地内の、本件第二、第三の土地の西側には巾約五間、またその北側には巾約四間の、いずれも、公道に通ずる私道があつたから、本件第二、第三の土地は袋地ではなかつた。

(二) しかして、本件第二、第三の土地は、原告佐藤が昭和十六年十月十三日これを竹田宮から買い受けた結果、すなわち、分譲によつて袋地となつたものであるから、原告佐藤が右の各土地から公道に達するためには、分譲者たる竹田宮の前記所有地(現在訴外堤康次郎の所有地でプリンスホテルの敷地となつている)を通行する権利こそあれ、被告所有の本件第一の土地を通行する権利はない。

(三) 本件第三の土地は、原告石原が昭和二十二年七月三十日原告佐藤から分譲を受けたものであるから、これから公道に達するためには、本件第二の土地を通り、または直接に、竹田宮の前記所有地を通行すべきものであつて、本件第一の土地を通行する権利はない。

以上のとおりであるから、原告等の本訴請求は、失当として棄却を免れない。

三、被告の主張に対する原告の答弁

被告の主張事実中、原告佐藤が終戦後被告主張の訴外の土地に居住していること、近藤建設株式会社が昭和二十五年十二月下旬頃原告等の本件第一の土地に対する占有を侵奪したので、原告が右会社を相手方として前記の如き仮処分の執行をしたが、右侵奪後一年以内に占有回収の訴を提起しなかつたこと及び竹田宮が渡辺昭から本件第二、第三の土地を買い受けた当時右土地の西側にこれと隣接する数万坪の宅地を所有し、該宅地が公道に接続していたため他人の所有地を通行せずして本件第二、第三の土地から公道に達し得たこと、並びに右数万坪の宅地が現在堤康次郎の所有であつてプリンスホテルの敷地となつていることは、いずれも、認めるが、その余の事実は、すべて争う。

第二、証拠〈省略〉

理由

第一、主たる請求について

一、請求原因(一)ないし(四)の事実は、いずれも、当事者間に争いがない。

二、そこで、まず、原告佐藤による通行地役権の時効取得の点について判断する。通行地役権は、「継続且表現ノモノ」に限り時効によつて取得し得るものであることは、民法第二百八十三条の規定するところであるが、右時効取得における継続の要件としては、要役地所有者によつて承役地たる他人所有地に通路の開設がなされることを要するものと解すべきところ、原告等は、原告佐藤は昭和十六年十月十三日竹田宮から本件第二、第三の土地所有権の譲渡を受けるとともに本件第二、第三の土地を要役地とし本件第一の土地を承役地とする通行地役権の譲渡を受け爾来本件第一の土地を通行していたと主張するに止り、右要役地の前主たる竹田宮ないしこれが所有権の譲渡を受けた原告佐藤において、本件第二、第三の土地の便益に供するため、本件第一の土地に通路を開設したことについては、なんらの主張もしない。従つて、単に、本件第一の土地が自ら通路の形態をなし、原告佐藤が本件第一の土地を永年通行していたというだけでは、いまだ、前記民法の規定にいうところの「継続」の要件を充たすものと認めるに足りない。してみると、原告佐藤の本件第一の土地に対する通行地役は、継続のものということができないから、右通行地役権を時効取得したとする原告等の主張は、到底採用することができない。のみならず、原告佐藤の右通行地役権時効取得の主張は、次の理由によつても、失当であると考える。すなわち、仮に、原告佐藤の通行地役権の時効取得に必要な占有の継続が存したとしても、その取得時効完成前たる昭和二十五年十二月二十七日頃近藤建設株式会社が本件第一の土地に建物を建築するため、右土地全部に対する原告佐藤の占有を奪取して占有していたこと、原告等が同二十六年一月十一日右会社を相手方として東京地方裁判所に仮処分を申請し(同庁同年(ヨ)第四三号事件)、同日「債務者(右会社)の本件第一の土地に対する占有を解いて債権者等(原告等)の委任する東京地方裁判所執行吏に保管を命ずる。債務者は右土地における建築工事を続行してはならない。」旨の仮処分決定を得て翌十二日これを東京地方裁判所執行吏に委任して執行したので右土地が工事着手の状態で右執行吏の保管するところとなつたこと、右仮処分の執行が同二十七年十月二十四日に解放されたが、原告が右会社に対し本件第一の土地の占有侵奪の時より一年以内に占有回収の訴を提起しなかつたことは、いずれも、当事者間に争いのないところである。しかして、右の事実によると、原告佐藤は、右会社によつて本件第一の土地に対する占有を侵奪されたにもかかわらず、前記仮処分決定を得てその執行をなしたのみで(右の如き、いわゆる執行吏保管の仮処分の執行によつて、目的物に対する占有権の帰属に変更があるか、ありとせば何人に帰属するかという点については争いがあるとしても、少くとも、一旦占有を喪失した仮処分債権者は、右仮処分の執行によつて目的物に対する占有権を回復し得ないものと考える、)、右侵奪後一年以内に占有回収の訴を提起しなかつたものであるから、被告の主張するように、原告佐藤の本件第一の土地に対する通行地役権の取得時効は、前記会社の占有侵奪によつて、中断したものといわなければならない。

三、してみると、原告佐藤は、いずれにしても、時効によつて原告等主張の通行地役権を取得し得ないものというべきである。従つて、原告佐藤が右通行地役権を時効取得したことを前提とする原告石原の主張も失当であることは明らかである。

四、それならば、被告等に対し通行地役権の確認及び妨害の排除を求める原告等の第一次的請求は、いずれも、失当であるから排斥を免れない。

第二、予備的請求について

一、まず、被告は、原告等は従来の通行地役権の確認及び妨害排除の請求に追加して予備的に囲続地通行権の妨害排除の請求をなすがこれは請求の基礎に変更があるから許さるべきではない、と主張するので考えるに、原告等の通行地役権に基く請求も、囲続地通行権妨害排除の請求も、結局は、原告等がその所有にかかわる本件第二、第三の土地の便益に供するため本件第一の土地を通行し得る利益を擁護せんとするものであるから、本件訴の変更は、請求の基礎に変更がないものと認めるを相当とし、しかも、本件記録によると、右訴の変更により著しく訴訟手続を遅滞させるものとは認められないから、原告等のなした訴の変更は、適法であり、許さるべきものである。

二、そこで、本案につき考えてみると、本件第二、第三の土地が、いずれも、他人所有の土地に囲続されているので、他人所有地の土地を通行しなければ公道に達し得ない状態にあること、すなわち、袋地であることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、被告は、本件第二、第三の土地が袋地となつたのは分譲の結果によるものであるから、その所有者たる原告等は分譲者の所有地を通行すべきであつて被告所有の本件第一の土地を通行する権利はない旨主張するので考えるに、竹田宮が、昭和十三年七月二十日、すなわち、渡辺昭から本件第二、第三の土地を買い受けた当時右各土地の西側に隣接して数万坪の宅地を所有していたこと、右宅地が公道に接続していたため本件第二、第三の土地から他人所有の土地を通行することなく右公道に達し得たことは、いずれも、当事者間に争いがなく、原告佐藤が同十六年十月十三日竹田宮から本件第二、第三の土地の分譲を受けたことは前記のとおりであるから、本件第二、第三の土地は、竹田宮から原告佐藤に対する分譲によつて袋地になつたものというべきである。してみると、原告等が所有する本件第二、第三の土地から公道に達するには、右分譲者たる竹田宮の前記所有地(現在、右土地は、堤康次郎の所有地にしてプリンスホテルの敷地であることは、当事者間に争いがない)。を通行する権利があるとしても、被告所有の本件第一の土地を通行する権利を有しないものといわなければならない。従つて、原告等の予備的請求も、また採用することができない。

第三、むすび

それならば、原告等の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由のないこと明らかであるから、いずれも、失当として棄却すべきものである。よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十三条、第八十九条を適用し、主文のとおり、判決する。

(裁判官 福島逸雄 駒田駿太郎 長久保武)

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